冗談に殺す
夢野久作

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)某社《ぼうしゃ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)流感|除《よ》けの黒いマスクをかけた

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)電気こたつ[#「こたつ」に傍点]に暖まりながら、
−−

       一

 私は「完全な犯罪」なぞいうものは空想の一種としか考えていなかった。丸之内の某社《ぼうしゃ》で警察方面の外交記者を勤めて、あくまで冷酷な、現実的な事件ばかりで研《と》ぎ澄《す》まされて来た私の頭には、そんなお伽話《とぎばなし》じみた問題を浮かべ得る余地すら無かった。そんな話題に熱中している友達を見ると軽蔑《けいべつ》したくなる位の私であった。
 その私が「完全な犯罪」について真剣に考えさせられた。そうして自身にそれを実行すべく余儀なくされる運命に陥ったというのは、実に不思議な機会からであった。すべてが絶対に完全な犯行の機会を作ってグングンと私を魅惑して来たからであった。
 今年の正月の末であった。私はいつもの通り十二時前後に社を出ると、寒風の中に立ち止まって
次へ
全32ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング