。何もかも白状致します……ハイ……ハイ……」
 戸若運転手は机の端にヒレ伏したまま涙をバラバラと落し初めた。
「……ちょっと待て……ちょっと……」
 少々驚いたらしい交通巡査は、帳面片手に立上ってソソクサと部長室を出て行った。広間の大火鉢の前で煙草を吸っている巡査部長の傍へ近付いてコソコソと耳打ちした。
「そんな事を云い出したもんですから……どうも僕の受持ではなさそうです。ちょっと立合って頂きたいんですが」
 巡査部長は面倒臭そうにアクビしいしいうなずいた。向い合って煙草を吸っている二人の刑事をかえり見た。
「この頃ソンナ話は聞かんな。姦通とか、二千円の盗難とか……」
 二人の刑事は眼をパチパチさせて部長を仰いだ。一人が頭を左右に振った。
「おかしいですね」
「ブツカッた拍子に頭が変テコになったんじゃねえかな」
「ウム。とにかく君等も一所《いっしょ》に来てくれ給い」
 部長と二人の刑事が交通巡査を先に立てて部長室に這入《はい》った。
 四人の警官に取巻かれた戸若運転手はチョッと魘《おび》えたらしい。サッと唇の色をなくしたが、交通巡査が注《つ》いで遣った熱い茶を啜《すす》ると又一つホッと
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