衝突心理
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)一寸《ちょっと》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)同県下|子安《こやす》、
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 昭和九年四月一日の午前十時頃、神奈川県川崎の警察署へ新聞記者が五六人集まって、交通巡査から夕刊記事を貰っていた。
 それは一寸《ちょっと》聞いたところ、極めて簡単明瞭な交通事故であった。
 その早朝の三時頃、京浜国道川崎市の東の出外《ではず》れでトラック同志が衝突した。突きかけた方は同県下|子安《こやす》、妹田《いもだ》農場の一|噸積《トンづみ》シボレーの使い古した牛乳|車《トラック》で、衝突と同時に機械と運転台をメチャメチャにした上に、運転手の蟹口才六《かにぐちさいろく》(三十一)は頭蓋骨粉砕、頸骨、左|肋骨《ろっこつ》を打折り即死、助手兼、乳搾夫《ちちしぼり》、山口|猿夫《さるお》(十七)は左脚の大腿部を骨折し人事不省に陥っている。又、突っかけられた方の車は、深川の三徳製材会社用、新着のビック特製二|噸《トン》半|積《づみ》ダブルタイヤで、横浜市外の渋戸《しぶと》材木倉庫から米松《べいまつ》を運
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