した。
「……そ……それに違いないんです。……でなけあコンナ事まで白状しやしません。ぶつかったトタンに私は……俺が悪かったッ……と怒鳴った位だったんです。ハタの奴には聞こえなかったかも知れませんけど……間違いありません」
と云ううちに額の傷が昂奮のために破れたらしい。繃帯の上に新しい血が真赤にニジミ出した。
交通巡査も二人の刑事も巡査部長と同様に憂鬱な顔になってしまった。相手の見幕の森厳《しんげん》さに圧倒されたかのように……。
「つい。まあええ。もちっと調べてみんとわからん」
交通巡査は幾分意地になったような語気で巡査部長に向って頭を下げた。
「ちょっと蟹口の助手をしていた山口猿夫という小僧の容態を見て来ます。口が利けたら審問してみたいですから……」
衝突|現場《げんじょう》附近の烏頭《うとう》外科医院に入院していた乳搾《ちちしぼり》少年、山口猿夫は左脚に巨大な石膏型《ギプス》をはめたまま意識を回復していた。枕頭《まくらもと》には妹田農場の牧場主任と園芸主任が突立ってヒソヒソ話をしていた。
警官の姿を見た二人が別室に退《しりぞ》いたアトで、交通巡査から委細の話を聞いた山口少
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