年は、眼を光らして頭を左右に振った。
「違います。そんな事があるもんですか。僕は蟹口さんの近所に居ますし、いつも牛乳|車《トラック》に一所に乗って行くんで、よく知っています。そんな事があったかも知れませんが蟹口さんは一口もそんな話をしませんでした。……しかし……蟹口さんがこの頃スッカリ自棄《やけ》になっていた事は事実です。自分の子供のように可愛がっていた野菜や植木にも水を遣らないで、お酒ばっかり飲んでいたんです。短気で喧嘩ばかりしていて、いつも困っていたんです。途中で降りて酒場《バア》で一杯引っかけて来ると一層気が荒くなって、運転が乱暴になっちゃってトテモ恐ろしかったんです。……この頃、×締りがズボラになったんで……御免なさい。蟹口さんが、そう云ったんですから……ゆるくなったんで礼儀も何も知らない土百姓みたいな運転手が、京浜国道をノサバリやがって仕様がねえ。こちらでチャンとヘッド・ライトを消してやっても挨拶も何もしねえで通り抜ける奴が多いんだ。××の奴等あ……御免なさい……そう云ったんですから……別嬪《べっぴん》の乗っているエロ・ハイヤばかり××××××トラックなんか見向きもしねえから
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