と青年会旗の下に、男とも女とも附かぬ奇妙な恰好《かっこう》の人間が、両手を支《つ》いて土下座している。
 頭は蓬々《ほうほう》と渦巻き縮れて、火を付けたら燃え上りそうである。白木綿に朱印をベタベタと捺《お》した巡礼の笈摺《おいずり》を素肌に引っかけて、腰から下に色々ボロ布片《きれ》を継合わせた垢黒《あかぐろ》い、大きな風呂敷|様《よう》のものを腰巻のように捲付《まきつ》けている恰好を見ると、どうやら若い女らしい。全体に赤黒く日に焼けてはいるが肌目《きめ》の細かい、丸々とした肉付の両頬から首筋へかけて、お白粉《しろい》のつもりであろう灰色の泥をコテコテと塗付けている中から、切目の長い眦《めじり》と、赤い唇と、白い歯を光らして、無邪気に笑っている恰好はグロテスクこの上もない。
 今しも台所から出て来たこの家の下男の一作が、赤飯《せきはん》の握飯《にぎりめし》を一個遣って追払おうとするのを、女はイキナリ土の上に払い落して、大きく膨脹《ぼうちょう》した自分の下腹部《したはら》を指しながら、頭を左右に振った。獣《けだもの》とも鳥とも附かぬ奇妙な声を振絞《ふりしぼ》った。
「アワアワアワアワアワ。
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