エベエベエベエベエベ」
「コン畜生。唖女《おしやん》の癖にケチを附けに来おったな。コレ行かんか。殺すぞ」
 一作が薪割用の斧《おの》を振上げて見せると、唖女《おしおんな》は、両手を合わせて拝みながら、蓬々たる頭を左右に振立てた。下腹部《したはら》を撫でて見せながら今一度叫んだ。
「エベ……エベ……エベエベエベ」
 その時に栗野博士夫婦が玄関へ出て来た。
「コレコレ。乱暴な事をしちゃ不可ん。穏やかにして追返さんと不可《いか》ん」
 唖女が急に向直って栗野博士のフロック姿に両手を合わせた。下腹部《したはら》を指して奇声を発し続けた。
「何だ。妊娠しとるじゃないか」
 一作が手拭を肩から卸した。斧を杖に突いてペコペコした。
「ヘエヘエ。これは先生。この唖女《おしやん》はモトこの裏山の跛爺《ちんばじい》の娘で、あそこの名主どんの空土蔵《あきどぞう》に住んでおった者で御座いますが……」
「フウム。まだ若い娘じゃな爺さん」
「ヘエ。幾歳《いくつ》になりますか存じませんが。ヘエ。去年の夏の末頃までこの裏山に住んでおりまして、父親の跛爺の門八は、村役場の走り使いや、避病院《ひびょういん》の番人など致し
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