ておりましたが……」
「フーム。村の厄介者じゃったのか」
「ヘエ。まあ云うて見ればソレ位の人間で御座いましたが、それが昨年の秋口になりますと大切な娘のこの唖女《おしやん》が、どこかへ姿を隠しましたそうで、門八爺は跛引き引き村の内外を探しまわっておりますうちに、あの土蔵の中で首を縊《くく》って死んでおりました事が、程経てわかりましたので大騒動になりましてな」
「ウムウム」
「それから後、この唖女《おしやん》の姿を見た者は一人も居りませんので……ヘエ……」
「ふうむ。誰が逃がいたのかわからんのか」
「ヘエ。それがで御座います。御覧の通り唖娘《おしむすめ》の上に色情狂《いろきちがい》で、あの裏山の中の土蔵の二階窓から、山行の若い者の姿を見かけますと手招きをしたり、アラレもない身振をして見せたり致しますので、跛の門八|爺《じい》が外に出る時には、必ず喰物を内に残いて、外から厳重《しっかり》と締りをしておったそうで御座います。それでも門八が帰りがけには、途中《みちなか》で拾うた赤い布片《きれ》なぞを持って帰ってやりますとこの花子|奴《め》が……この娘の名前で御座います……コイツが有頂天も無う喜ん
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