の皮膚をシッカリと…………て気を散らそうと試みた……が……しかしその手の甲の肉から湧き起る痛みすらも、一種のタマラない……………のカクテルとなって彼の全身に渦巻き伝わり、狂いめぐるのであった。
彼は突然に眼を閉じ、唇を噛締《かみし》めて、雑木藪《ぞうきやぶ》の中を盲滅法《めくらめっぽう》に驀進《ばくしん》し初めた。あたかも背後から追かけて来る何かの怖ろしい誘惑から逃れようとするかのように、又は、それが当然、意志の薄弱な彼が、責罰として受けねばならぬ苦行であるかのように、袷衣《あわせぎぬ》一枚の全身にチクチク刺さる松や竹の枝、露《あら》わな向う脛《ずね》から内股をガリガリと引っ掻き突刺す草や木の刺針の行列の痛さを構わずに、盲滅法に前進した。全身汗にまみれて、息を切らした。そうして胸が苦しくなって、眼がまわりそうになって来た時、突然に、前を遮《さえぎ》る雑木藪の抵抗を感じなくなったので、彼はヒョロヒョロとよろめいて立佇《たちど》まった。
彼はまだ眼を閉じていた。はだかった胸と、露《あら》わになった両脚を吹く涼しい風を感じながら、遠く近くから疎《まばら》に聞こえて来るツクツク法師の声に
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