鉄瓶からシュンシュンと湯気が立っていた。
仲人栗野博士から、唖女に対する伝六郎の口上を、身振り手真似、声色《こわいろ》入りで聞かされた花嫁の初枝は、たしなみも忘れて、声を立てながら笑い入った。そうして、
「まあまあ大事にしてやんなさい。医者の人気というものはコンな事から立つものじゃけに……そのうちに私が県庁へ手続きをして行路病人の収容所へ入れて上げるけに……」
という博士の話を聞いて初枝はスッカリ安心したらしく、両手を突いて頭を下げながらホッとタメ息をしてみた。しかし新郎の澄夫は両手をキチンと膝に置いて頸低《しなだ》れたまま、ニンガリもせずに謹聴していた。
それから博士夫妻の介添《かいぞえ》で、床盃《とこさかずき》の式が済んで二人きりになると、最前から憂鬱《ゆううつ》な顔をし続けていた澄夫は、無雑作に………………、………………………………………………………………………。塗枕と反対側の床の間の方を向いて、両腕を組んで、両脚を縮めたまま凝然《じっ》と眼を閉じた。
澄夫の着物を畳んで、衣桁《いこう》にかけた花嫁の初枝は、…………………………………………、…………………、…………………
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