肉美を露出している。
「ヨオヨオ。これは芽出度い、婚礼の門口に孕《はら》み女とは芽出度い、イヤア……汝《なれ》あ裏山のお花坊じゃねえかい。こん外道人間。片輪者とはいいながら親の死んだ事も知らじい、どこをウロ付きおったかい。どこの×××××をば孕《はろ》うで来おったかい。ええ。コレ……コレ……」
と云ううちにお花の両脇の下に手を入れて軽々と抱き上げた。お花は引離されまいとする一生懸命さに、片手で色々な手真似をしいしい、線香花火のように暴れ出した。繿縷布片《ぼろきれ》の腰巻が脱け落ちそうになったまま叫び続けた。
「アワアワアワ。エベエベエベエベ。ギャアギャアギャアギャアギャ」
「アハハハ、わかったわかった。感心感心。ウムウム。エベエベエベじゃ。ベッベッ。臭いなあ貴様は……アハハハ。わかったわかった。つまり近いうちに子供が生まれるけに、この若先生に頼んで生ませてもらいたいチウのか……ウムウム。なかなか良うわかっとる。エベエベ。感心感心」
「エベエベエベエベエベ」
「ええ。泣くな泣くな。縁起の悪い。ウムウム。わかったわかったそうかそうか。よしよし。俺が頼うでやる頼うでやる。柔順《おとな》しうしとれ」
「エベエベエベエベ」
「なあ若先生。魂消《たまげ》なさる事はない。これあ芽出度い事ですばい。たとい精神異状者《きちがい》じゃろが、唖女じゃろが何じゃろが、これあ福の神様ですばい。何も知らじい来た、今日のお祝いの御使姫《つかわしめ》ですばい。何とかして物置の隅でも何でも結構ですけに、置いてやって下さいませや。本来ならば役場で世話せにゃならぬところですけれど、この村にゃ[#「村にゃ」は底本では「村にや」]設備が御座いませんけに、なあ先生。功徳で御座いますけに……きょうのお祝いに来た人間なら何かの因縁と思うて、なあ若先生……これ位、芽出度い事は御座いまっせんばい」
「……………」
「どうぞもし……どうぞ若先生。先生の病院はこの功徳の評判だけでも大繁昌《だいはんじょう》ですばい。アハハ……なあ花坊。祝い芽出度の若松様よ……トナ……さあ。花ちゃん。この手を離しなさい。柔順《おとな》しうこの帯を離しなさい。この若先生が診《み》てやると仰言《おっしゃ》るけに……」
双肌脱《もろはだぬぎ》の伝六郎が、音に聞こえた強力で、お花の腕を※[#「てへん+宛」、第3水準1−84−80]《も》ぎ離そう
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