待ちかねて受話機を取り上げた。
「ええ、ええ。そうよ。あたし眉香です。アンタ倉庫の紙塚さん……そう。アノネ。御苦労さんですがね。明日の朝までに着くように原田さんの処へ……ええ。門司の原田さんの処へ爆薬《ハッパ》を二箱お送りするようにお約束したんですがね。ええ。ごく内々で……ですからね。今夜の直方発の終列車の上りの客車便に……そう……十時五十分に間に合うように大急ぎで荷造りしてちょうだい。まだ四時間ぐらいあるでしょ。……そうね。どちらも茣蓙《ござ》で包んで上箱に入れて、貴重品扱いにして門司の山九運送店宛に出して下さいな。そう。中味は仏像とか、骨董品《こっとうひん》とか、何とかしといて頂戴。そうしてチェッキが出来たらアンタ自身にソレを持って駅で待っていて頂戴ね。用心しなくちゃ駄目ですよ。十分に荷造りしてね。このごろ、こっちへ共産主義《アカ》が入り込んだってね。とても取り締りが八釜《やかま》しいんですからね……ええ。そうそう。あたしの名前にしときゃあ大丈夫よ。……あの。それからね。荷造りする時には倉庫の明りが外に洩れないようにしとかなくちゃ駄目よ。ええ、ええ。どうかそうして頂戴。それがいいわ
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