。ええ。全部そうして頂戴。一つ二つぐらいだと却って疑われるから。ええ。どうぞ願います。こっちは大丈夫よ。ホホホ」
眉香子は平然として受話機を掛けながら青年をかえりみた。
「二箱でいいんですね」
青年は返事の代りにピョコンと勢いよく立ち上った。卓子《テーブル》を一廻りして眉香子の真正面から接近《ちかづ》くと、眉香子の両手を自分の両手でシッカリ握り締めた。感激の涙をハラハラと流した。
「……ありがとう……御座います。感謝に……堪えません」
「まあ。あんなこと……わたくしこそ感謝に堪えませんわ。わたくしみたいな女を見込んで下すって……」
といううちに立ち上って青年の両手をシッカリと握り返した。青年は肩をすぼめて身震いした。眉香子の魅力に包まれたように……けれども間もなく静かに、その手を振りほどいた。二、三歩後に下って恭《うやうや》しく一礼した。
「それでは……これで……お暇《いとま》を……この御恩は死んでも……」
「アラマア……」
眉香子は追いかけるように二、三歩進み出た。強《し》いて青年の手を取って、今まで自分が坐っていた椅子に、青年の身体《からだ》を深々と押し込んだ。
「まだ、荷
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