物とチェッキが出来ないじゃ御座いませんか。それまで、どうぞ御ゆっくりなすって下さいませよ」
「……でも……それはアンマリ……それに私は今夜のうちに門司に出て、明朝早く荷物を受け取って、明後日、神戸の……」
「それでも荷物と一緒の汽車なら宜しいじゃ御座んせん」
「……そ……それは……そうですが……実は……」
「何か御差支えが御座いまして……」
「実はその……友人が四名ほど……福岡の東亜会員が四名ほど、私を門司まで見送ると申しまして、私と同じ汽車で発《た》つ予定で、直方の日吉旅館に来ておりますので……是非とも……」
「もうお会いになりまして……」
「九時ごろの汽車で来ると申しておりましたが……」
「それでもまだ二時間近く御座いますわ。そんなお友達の御親切も何で御座いましょうけれども、今夜、御一緒の汽車で門司にお着きになってからでも御ゆっくりとお話が出来ましょう」
「そ……それは……そうですが……」
「わたくしもホンノ仮染《かりそめ》の御識り合いでは御座いましょうが、心ばかりの御名残惜しみが致したいので御座いますからね。それくらいのおつき合いは、なすっても宜《い》いじゃ御座んせん。爆薬《ダイ
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