ンタは……何をソンナに怖がるの……何処へ行くのイッタイ……おかアしな人ねえ……ホホホホホホホホ……」
しかし部屋を出て行った青年が、応接間の重たい扉を、向側からバタンと大きな音を立てて閉めると、眉香子の笑い顔が、急にスイッチを切り換えたように冷笑に変化した。
「オホホホホホホ、ハハハハハハハ。お馬鹿さんねえ、アンタは……出て行ったってモウ駄目よ。今夜のうちにお陀仏よ。ホホホ。でも……お蔭で今夜は面白かったわ……」
しかし新張家の内玄関を一歩出ると、青年の態度が急に、別人のように緊張した。
厳《いか》めしい鉄門の鉄柵越しに門前の様子を見定めると、電光の様に小潜りを出た。鼬《いたち》のように一直線に門前の茅原の暗《やみ》に消え込んだ。それから新張家の外郭を包む煉瓦塀にヘバリついてグルリと半まわりすると、裏手の小山のコンモリした杉木立の中に辷《すべ》り込んだ。
青年はこの辺の案内をよほど詳しく調べていたらしい。それから二十分ほどしてから選炭場裏の六十度を描く赤土の絶壁の上に来ると、その絶壁の褶《ひだ》の間の暗《くら》がりを、猿のように身軽に辷り降りた。それから炭坑のトロ道が作る黒い
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