ということを私は兼ねてから聞いています。しかし些《すくな》くとも「あれが当選したら」位の挨拶はするだろうと予期していたのに、まるで懸賞募集に応じたものかどうかすら知らない程度の無表情さで、あとは留守中の報告に移りました。私はウンザリしました。そうしてあの一篇は単純な読み物としても落第ではないかと心配し初めました。「何故あの事実をもっと突込んで研究して見なかったろう。たとい興味は薄らいでも真実味はきっと深まったに違いなかったろうに」という後悔をその後二三度繰り返したように思います。
ところがこの一週間ばかり旅行して昨十日夜に帰って来ますと、私の机の上に森下氏のお手紙と新青年の六月増大号と、「アヤカシノゴセイコウヲシュクス○トシ○タミ○フミ○チヨ」という岡山発の電報がほかの手紙とゴッチャになって乗っています。電報は義弟のF学士と妹たちで、高知の病院に赴任の途中岡山で新青年を見て打ったものに違いありません。私はまだ何も見ないうちにヒヤリとさせられました。
それから諸大家の御批評を読み初めましたが、間もなく私は又この篇を書くに就いて飛んでもない了簡違いをやっていることに気が付きました。しか
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