いくらか楽なのでその方にして、「焼けあとの二つの死骸」を最初に持って来て又十枚ばかり書きますと、とても骨が折れて筋が運べない上に、あとの説明が私の力ではどうしてもダラケそうに思われます。そのうちにもう頭が疲れて、坐っている足が痛くなりましたので、「何でもいい、とにかく出して見よう」という気になって、最初の思い付き通りに因縁話から書き直し初めました。
そのうちに風邪で寝たり何かして案外早く出来上りましたから、二度ばかり読み返すとすぐに妻に渡して、これを博文館のこれこれへこんな風にして出しておけと云ったまま仕事に出かけました。そうして二日経って帰って来て、妻に「出したか」とききますと、「ヘエ。送りました。あれは何ですか」とあまり気の乗らない尋ね方をします。「読んだのか」「ヘエ」「面白かったか」「ヘエ……何だかわかりませんけど、あんな気味のわるいことが本当にあるものでしょうか」「どうだか知らん。返送料は入れたか」「ヘエ」こうした気のない会話のうちに、私は妻の表情の中《うち》から失望に価する多くの点を見出しました。こんな方面にあまり趣味を持たない、何気もないものの受けた感じが一番公平なものだ
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