泣き出させたの。眼が醒めてから後《あと》までも、妾は、そんな言葉の意味を繰り返し繰り返し考えながら眼をまん丸く見開いて、いつまでも暗い天井を見詰めていたわよ。
そのうちに十日ばかりも経つと、凍傷《しもやけ》の方が思ったよりも軽く済んだし、針金の痕《あと》も切れ切れになってお化粧で隠れる位に薄れて来たの。それにつれて身体《からだ》がもとの通りに元気付くし、口もどうにか利けるようになって来たので、寝ているわけにも行かなくなって、思い切って舞踏場へ出て見たら、間もなく、あんたが遊びに来たでしょう。
それあ不思議といえばホントに不思議でしようがないのよ。妾はあんたに会ったのが、神様の引き合せとしか思えないのよ。だって初めてあんたに会ったあの晩ね、あの晩から妾はピッタリと、そんな怖い夢を見なくなったのよ。おまけに前と比べると丸で生れかわったように饒舌娘《おしゃべり》になってしまってね……そうしてそのうちに、あんたがたまらない程可愛いくなって来るにつれて、あのヤングが云っていた色んな言葉の本当の意味が、一つ一つに新しく、シミジミとわかって来たように思うの。そうしてヤングから教《おそ》わった色ん
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