へや》へ逃げ込んだと思うと、妾の内ポケットから鍵を取り上げて扉《ドア》をピッタリと掛けてしまったの。……その素早かった事……でもその時は、妾が店に突き出されてから、まだやっと二日目位だったし、男ってどんなものか知らない位だったもんだから、ホントウにビックリしてしまって、一生懸命ヤングの軍服の胸に獅噛《しが》み付いていたわ。だけどヤングは、この室《へや》で二人切りになると、トテモ親切に妾を慰めてくれたのよ。落魄《おちぶれ》男爵の娘から、こんなレストランの踊り子にかわった妾の身の上話を、シンカラ同情して聞いてくれたり、お料理やお菓子を色々取ったり、お酒をいくらでも飲んでくれたり、お金を持っているだけ、みんな置いて行ってくれたりしたので、妾ホントウに嬉しかったわ。それはみんな亜米利加《アメリカ》の貨幣《おかね》だったけど、主人は大ニコニコで私の頭を撫で、
「大手柄大手柄……あのお客人を一生懸命で大切《だいじ》にしろ……」
 って云ってくれたわ。
 それからヤングは毎晩のように妾の処へ遣って来たの。そうして妾とだんだん仲よしになって来ると、いろんな事を妾に教え初めたの。亜米利加の言葉だの、AB
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