だよ。……それからもう一人……この艦《ふね》に乗っている俺たちの司令官《たいしょう》を怨みたけあ怨むがいいってんだ。……イヤ……事によると、その司令官《たいしょう》だけを怨むのが本筋かも知れないがね……どっちにしても、お前さん達のいい人や、そんな連中に頼まれた俺達を怨んじゃいけないよ。いいかい……という訳はこうなんだ。先刻《さっき》ヤングさんが司令官《たいしょう》に、お前さん達を亜米利加《アメリカ》まで連れてっていいかって伺いを立ててみたら、亜米利加の軍艦の中には、食料品《たべもの》より以外《ほか》に肉類《にく》を一切置いちゃイケナイってえ規則になっているんだッてさあ……だからね……折角《せっかく》ここまで来ているのをホントにお気の毒でしようがないけど、ちょうど風も追い手のようだから、お前さん達はその袋のまんま、海を泳いで浦塩《うらじお》の方へ……」
 ここまでその男が饒舌《しゃべ》って来たら、あとは聞えなくなっちゃったの。だって妾のまわりに転がっている十いくつの袋の中から、千切《ちぎ》れるような金切声が一どきに飛び出して、ドタンバタンとノタ打ちまわる音がし始めたんですもの。中には聞い
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