たような声がいくつもあったようだけど、そんな時に誰が誰だかわかりやしないわ。ただ耳が潰れるほどキーキーピーピー云うだけですもの。
 だけど私は黙っていたの。声を出すより先にどうかして、袋を破いてやろうと思って、一生懸命に藻掻《もが》いていたの。だけど袋が小さい上にトテモ丈夫に出来ているので、噛み付こうにも噛み付けないし、力一パイ足を踏ん張ると首の骨が折れそうになるし、その苦しさったらなかったわ。だけど、それでも生命《いのち》がけの思いで、力のありったけ出して藻掻いているうちに、妾のまわりの叫び声が一ツ一ツに担ぎ上げられて、四ツか五ツ宛《ずつ》行列を立てながら階段を昇りはじめたの。その時にはチョットの間《ま》みんなの叫び声は止んだようだけど、その階段の音が聞えなくなると、又前よりも非道《ひど》い泣き声や金切声がゴチャゴチャに聞え始めたの。めいめいに男の名を呼んでヒイヒイ泣いていたようよ。
 だけど妾それでも泣かなかったの。そうして死に物狂いになって、両手で頭をシッカリと抱えながら、足の処の結び目を何度も何度も蹴ったり踏んだりしていたら、身体《からだ》中が汗みどろになって、髪毛《かみのけ》
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