ゃねえか」
「駄目だよ。浦塩《うらじお》の一粒|選《え》りを十七人も並べれあ、どんな盲目《めくら》だって看破《みやぶ》っちまわア」
「それにしても惜しいもんだナ。せめて比律賓《ヒリッピン》まででも許してくれるとなア」
「ハハハハまだあんな事を云ってやがる。……そんなに惜しけあ、みんな袋ごと呉れてやるから手前《てめえ》一人で片づけろ。割り前は遣らねえから」
「ブルブル御免だ御免だ」
「ハハハ見やがれ……すけべえ野郎……」
そんな事を云い合っているうちに一人がマッチを擦《す》って葉巻に火を点《つ》けたようなの。間もなく美《い》い匂いがプンプンして来たから……。
だけど妾はそのにおいを嗅《か》ぐと一緒に頭の中がシイーンとしちゃったの。身体《からだ》が石みたように固くなって息も吐《つ》けない位になっちゃったの。……だって妾みたようにしてこの軍艦に連れ込まれた者は、妾一人じゃないことが、その時にやっとわかりかけて来たんですもの……。妾のまわりにはまだ、いくつもいくつも支那米の袋が転がっているらしいんですもの……。おまけに、それをどうかしに来たらしい荒くれ男が三四人、平気で冗談を云い合いながら
前へ
次へ
全56ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング