しちゃったわ。妾の身体《からだ》は随分小さいんだけど、それでも足を出来るだけグッと縮めなければ袋の口が結ばらないのですもの。おまけにその臭かったこと……停車場のはばかりみたいな臭いがしてね。ホコリ臭くて息が詰りそうで、何遍《なんべん》も何遍も咳《せき》が出そうになるのをジッと我慢しているのがホントに苦しかったわ。
 それからどこを通って行ったのか、よくわからないけど、何でもこのスウェツランスカヤから横路地伝いに公園の横へ出て、公使館の近くを抜けながら海岸通りへ出たようなの。途中で下腹や腰のところがヤングの肩で押えられて痛くてしようがなかったけど、やっとの思いで我慢していたわ。ええ。それあ怖かったわ。ヤングが時々立ち止まるたんびに誰か来たのじゃないかと思ってね……。
 海岸に来るとヤングは、そこに繋いであった小さい舟に乗り込んで、妾をソッと底の方へ寝かして、その上に跨《また》がって自分で櫂《かい》を動かし始めたようなの……そこいらは、まだ暗くて、波の音がタラリタラリとして、粗《あら》い袋の目から山の手の燈火《あかり》がチラリチラリと見えてね……妾は息が苦しいのも、背中が痛いのも、それから
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