引っぱると一本一本にみんな抜けちゃったの。……ええ……電燈を消していたんだから外から見たってわかりやしないわ。……その穴からヤングが先に脱《ぬ》け出して、あとから這い出した私を抱え卸《おろ》してくれたの。
それは浦塩附近《ここいら》に初めて雪の降った晩で、あの屋根の白い斑雪《まだらゆき》もその時に積んだまんまなのよ。風は無かったようだけど星がギラギラしていてね……その横路地に白い舞踏服姿の妾が、寝台《ベッド》から取って来た白い毛布にくるまってガタガタに寒くなりながら立っていると、ヤングは大急ぎで、向家《むこう》の横路地の間から、隠しておいた支那米の袋を持って来て妾の頭の上からスポリと冠せてくれたの。そうしてそのまんま地びたの上にソッと寝かして、足の処をシッカリとハンカチで結《ゆわ》えるとヤットコサと荷《かつ》ぎ上げながら、低い声でこんな事を云って聞かせたのよ。
「さあ……ワーニャさんいいですか。暫くの間辛いでしょうけども辛棒して下さい。私がもう宜しいって云うまでは、決して口を利いたり声を立てたりしてはいけませんよ」
ってね……。だけど妾は、その袋があんまり小さくて窮屈なのでビックリ
前へ
次へ
全56ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング