っているヤングの脂切《あぶらぎ》った大きな背中を、小さな革《かわ》の鞭で、力一パイにたたいている間の気持ちのよかったこと……打てば打つほどヤングが可愛いくなって来てね……そうしてもう、ヤングと一緒に亜米利加《アメリカ》へ行ったら、そんな遊びが本式に大ピラで出来ると思うと、楽しみで楽しみでたまらなくなっちゃったの。だから……妾は毎晩そんな遊びをする時間をすこしずつ裂《さ》いて、ヤングを先生にして一生懸命に亜米利加の言葉を勉強し続けたのよ。
 妾は言葉を覚えるのが名人なんですってさあ。ヤングがビックリしていた位よ。ヤングとこんな話が出来るようになる迄でには一と月とかからなかったし、水兵さん達と悪態のつきっこをする位の事なら、初めっから訳なかったわ。おしまいにはヤングがよくポケットに入れて持って来る英字新聞《アングリウスクユガゼド》が、すこうしずつ読めるようになったから豪《えら》いでしょう。自分の国の字だと聖書もロクに読めないのによ。ホホホホホホホ。だって妾の両親はトテモ貧乏で、妾を学校に遣《や》る事が出来なかったんですもの……お化粧の道具なんかも、両親から買ってもらった事は一度も無かったの
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