ほかのは大抵卒業しちゃったのよ。……それも初めのうちは、妾がヤングからいじめられる役で、首をもうすこしで死ぬとこまで絞《し》められたり、縛って宙釣りにされたり、髪毛《かみのけ》だけで吊るされたりして、とても我慢出来ない位、苦しかったり痛かったりしたのよ。だけどそのうちにだんだん慣れて来たら、その痛いのや苦しいのが眼のまわるほどよくなって来てね……妾があんまり嬉しそうにして涙をポロポロ流したりするもんだから、おしまいにはヤングの方が羨ましがって、いつも持っている小さな鞭《むち》を妾に持たして、それで自分の背中を思い切り打《ぶ》ってくれって云い出した位よ。
 ええ……妾思い切り打ってやったわ。ヤングなら背中に鞭の痕《きず》が付いていても誰も気付かないでしょうし、妾も自分でいじめられる気持ちよさを知っていたんですからね……イイエ、音なんかいくら聞こえたって大丈夫よ。妾ヤングから教《おそ》わった通りに呑気《のんき》そうに流行歌《はやりうた》を唄いながら、その調子に合わせて打《ぶ》っていたから、外から聞いたって何かほかのものをたたいているとしか思えなかった筈よ。……でも、そうして寝台の上に長くな
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