ッカリと掴みながらブルブル慄《ふる》えて聞いていたようよ。その頃の妾は今よりもズッと初心《うぶ》だったもんですからね……そんな話を平気でしいしい、青い顔をしてお酒を飲んでいるヤングの軍服姿が、だんだん恐ろしいものに見えて来て、今にも妾を殺すのじゃないか知らんと思い思い、その高い薄っペラな鼻や、その両脇に凹《くぼ》んでいる空色の眼や、綺麗に真中《まんなか》から分けた栗色の髪毛《かみ》を見つめていたようよ。何だか悪魔と話しているような気がしてね……。
 だけど、そのうちにヤングから、そんな遊びの仕方を、一番やさしいのから先にして一つ一つに教《おそ》わって行くうちに、妾はもう怖くも何ともなくなってしまったのよ。……え……それあ本当の事はどうせ亜米利加《アメリカ》の本場に行って、色んな薬や器械を使わなくちゃ出来ないのが多かったし、一番ステキな日本式の遊びや、そのほかの生命《いのち》がけの遊びは相手が無いから、只|真似方《まねかた》と話だけですましたの。妾の身体《からだ》に傷が残るようなのも店の主人に見つかると大変だから、ヤングと一緒に亜米利加に行って結婚式を挙げてからの楽しみに取っといたけど、
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