ツカと平馬の前に進み寄って、恭々しく、頭を下げた。
「……手前ことは江戸、下《しも》六番町に住居《すまい》致しまする友川|三郎兵衛《さぶろびょうえ》次男、三次郎|矩行《のりゆき》と申す未熟者……江戸勤番の武士に父を討たれまして、病弱の兄に代って父の無念を晴らしに参りまする途中、思いもかけませぬ御力添えを……」
「ああいやいや……」
平馬は非道《ひど》く赤面しながら手をあげた。
「……その御会釈は分《ぶん》に過ぎまする。申後《もうしおく》れましたが拙者は筑前黒田藩の石月と申す……」
「……あの……黒田藩の……石月様……」
といううちに若侍は顔を上げて、平馬の顔をチラリと見た。しかし平馬は何の気も付かずに、心安くうなずいた。
「さようさよう。平馬と申す無調法者。御方角にお見えの節は、お立寄り下されい」
「忝《かたじけ》のう存じまする。何分ともに……」
若侍は又も、いよいよ叮重《ていちょう》に頭を下げた。
「……何はともあれこのままにては不本意に存じまするゆえ、御迷惑ながら小田原の宿《しゅく》まで、お伴仰せ付けられまして……」
「ああ……イヤイヤ。その御配慮は御無用御無用。実は主命を帯
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