斬られたさに
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)片側《かたがわ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)今一度|点頭《うなず》き合った。

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「田/(田+田)」、第4水準2−81−34]紙《らいし》
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「アッハッハッハッハッ……」
 冷めたい、底意地の悪るそうな高笑いが、小雨の中の片側《かたがわ》松原から聞こえて来た。小田原の手前一里足らず。文久三年三月の末に近い暮六つ時であった。
 石月《いわつき》平馬はフット立止った。その邪悪な嘲笑に釣り寄せられるように松の雫《しずく》に濡れながら近付いて行った。
 黄色い桐油《とうゆ》の旅合羽《たびがっぱ》を着た若侍が一人松の間に平伏している。薄暗がりのせいか襟筋《えりすじ》が女のように白い。
 その前後に二人の鬚武者《ひげむしゃ》が立ちはだかっていた。二人とも笠は持たず、浪人らしい古紋付に大髻《おおたぶさ》の裁付袴《たっつけばかま》である。無反《
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