むそ》りの革柄《かわづか》を押えている横肥りの方が笑ったらしい。
「ハッハッハッ。何も怖い事はない。悪いようにはせんけんで一所《いっしょ》に来さっせえちうたら……」
「関所の抜け道も教えて進ぜるけに……」
「……エッ……」
若侍は一瞬間キッとなったが軈《やが》て又ヒッソリと低頭《うなだ》れた。凝《じっ》と考えている気配である。
「ハハ。贋《にせ》手形で関所は抜けられるかも知れんが吾々の眼の下は潜れんば……のう……」
「そうじゃそうじゃ……のうヨカ稚児《ちご》どん。そんたは男じゃなかろうが……」
「……も……もっての外……」
と若侍は今一度気色ばんだが、又も力なく頭を下げた。隙《すき》を窺っているようにも見えた。
……フウン。肥後侍かな……。
と平馬は忍び寄りながら考えた。
……いずれにしてもこの崩れかかった時勢が生んだナグレ浪人に違いない。相当腕の立つ奴が二三人で棒組む……弱い武士と見ると左右から近付いて道連れになる。佐幕、勤王、因循《いんじゅん》三派のどれにでも共鳴しながら同じ宿に泊る。馳走をするような調子で酒肴《さけさかな》を取寄せる上に油断すると女まで呼ぶ。あくる朝はド
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