ロンを極めるというのがこの連中の定型《おきまり》と聞いた……歎かわしい奴輩《やつども》ではある……。
 そう考えるうちに若い平馬の腕が唸って来た。
 ……自分はお納戸《なんど》向きのお使番《つかいばん》馬廻《うままわ》りの家柄……要《い》らざる事に拘《かか》り合うまい……。
 とも考えたが、気の毒な若侍の姿を見ると、どうしても後《あと》へ引けなかった。黒田藩一刀流の指南番、浅川一柳斎の門下随一という自信もあった。去年の大試合に拝領した藩公の賞美刀、波《なみ》の平行安《たいらゆきやす》の斬味《きれあじ》見たさもあった。
 その鼻の先で鬚武者が今一度|点頭《うなず》き合った。
「サアサア。問答は無益じゃ無益じゃ。一所に来たり来たり。アハハハ……アハアハ……」
 女と侮《あなど》ったものか二人が前後から立ち寄って来るのを若侍はサッと払い除《の》けた。思いもかけぬ敏捷《はや》さで二三足横に飛んだと思うと、松の蔭から出て来た平馬にバッタリ行き当った。
「……アッ……」
 と叫んだ若侍が刀の柄に手をかけたが、その利腕を掴んだ平馬は、無言のまま背後《うしろ》に押廻《おしま》わした。二人の浪人と真正面
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