に向い合った。
「……何者ッ……」
「邪魔しおるかッ」
「名を名宣《なの》れッ」
という殺気立った言葉が、身構えた二人の口から迸《ほとばし》った。
「ハハ。名宣《なの》る程の用向きではないが……」
平馬は落付いて笠を脱いだ。若侍も平馬を味方と気付いたらしい。背後《うしろ》で踏み止まって身構えた。
「委細は聞いた。貴公達が肥後の御仁という事もわかったが、しかし大藩の武士にも似合わぬ見苦しい事をなさるのう……」
「何が見苦しい」
「要らざる事に差出《さしで》て後悔すな」
「ハハ。それは貴公方に云う事じゃ。関所の役人は幕府方と心得るが、貴公方はいつ、徳川の手先になった」
二人はちょっと云い籠められた形になったが、間もなく平馬が、まだ青二才である事に気が付いたらしい。心持ち引いていた片足を二人ともジリジリと立て直して来た。
「フフフ。武士たる者が松原稼《まつばらかせ》ぎをするとは何事か。両刀を手挟《たばさ》んでいるだけに、非人乞食よりも見苦しいぞ」
平馬がそう云う中《うち》に、相手はいつとなく左右に離れていた。こうした稼ぎに慣れ切っているらしく、平馬が持っていた菅笠を、背後《うしろ》の
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