者也。仮令《たとい》血統断絶致すとも苦しからざる事。
 一、敵手《あいて》の中の主立《おもだち》たる一人は黒田藩の指南番浅川一柳斎と名乗り、五十前後の長身にて、骨柄逞ましき武士なること。
 一、後々《あとあと》の事は母方の縁辺により、御老中、久世広周《くぜひろちか》殿に御願申上べき事 以上。
[#地から4字上げ]友川三郎兵衛矩兼血判
[#地から2字上げ]嫡男 長一郎矩道代筆印
[#地から2字上げ]次男 三次郎矩行  印
[#天から2字下げ]文久二年五月十四日
 又、別紙奉書の※[#「田/(田+田)」、第4水準2−81−34]紙《らいし》には美事なお家様の文字が黒々と認《したた》めてあった。
 別紙遺言状相添え、病弱の兄に代り、次男友川三次郎矩行、仇討執心の趣、殊勝の事。但、御用繁多の折柄に付《つき》、広周一存を以て諸国手形相添え差許《さしゆるす》者也《ものなり》。尚本懐の上は父三郎兵衛の名跡《みょうぜき》相違なかるべき事、広周|可含置《ふくみおくべき》者也《ものなり》
[#天から2字下げ]文久|壬戌《じんじゅつ》二年六月二日 広周 書判
 平馬の顔から血の色が消えた。何もかも解かったよ
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