》を荷いだ若党の金作がポカンとした顔付で手を突いた。
「……あの……申上げます」
「何じゃ金作……草取りか……」
「ヘエ……その……御門前に山笠《やま》人形のような若い衆が……参いりました」
「……何……人形のような若衆……」
「ヘエ……その……刀を挿《さ》いて見えました」
「……お名前は……」
「……ヘエ……その……友川……何とか……」
 平馬は無言のまま筆を置いて立上った。今までの不思議さと不安さの全部を、一時に胸の中《うち》でドキンドキンと蘇らせながら……。
 ところが玄関に出てみると最初に見かけた通りの大前髪《おおまえがみ》に水色襟、紺生平《こんきびら》に白|小倉袴《こくらばかま》、細身の大小の柄《つか》を内輪《うちわ》に引寄せた若侍が、人形のようにスッキリと立っていた。すこし日に焼けた横頬を朝の光に晒《さら》しながらニッコリとお辞儀をしたので、こちらも思わず顔を赤めて礼を返さない訳に行かなかった。
 ……これ程に清らかな、人品《じんぴん》のいい若侍をどうして疑う気になったのであろう……。
 と自分の心を疑う気持ちにさえなった。
「……これは又……どうして……」
「お久しゅう御
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