ば当流の皆伝を取らするがのう……」
「……エッ。あの……皆伝を……」
「ハハハ。今の門下で皆伝を許いた者はまだ一人もない。その仔細《わけ》が解かったかの……」
平馬は締木《しめぎ》にかけられたように固くなってしまった。まだ何が何やらわからない慚愧《ざんき》、後悔の冷汗が全身に流るるのを、どうする事も出来ないままうなだれた。
「……平馬殿……」
「……ハッ……」
「貴殿の御縁辺の話は、まだ決定《きま》っておらぬげなが、程よいお話でも御座るかの……」
平馬は忽ち別の意味で真赤になった。……自分の周囲に縁談が殺到している……「娘一人に婿八人」とは正反対の目に会わされている……という事実を、今更のようにハッキリと思い出させられたからであった。
「うむうむ。それならば尚更のことじゃ。念のために承っておくがのう。その今の話の美くしい若侍とか、又は見付の宿の奥方姿の女とかいうものが、万一、お手前を訪ねて来たとしたら……」
「エッ。尋ねて参りまするか……ここまで……」
「おおさ。随分、来まいものでもない仔細がある。ところで万が一にもそのような人物が、貴殿を便《たよ》って来たとしたら、どう処置をさっ
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