う。まだ左程、離れてはおるまいと存じまするで……」
「ああコレコレ。そのような骨を老体に折らせては……分別してくるればそれでよいのじゃが……」
「ハハ。恐れ入りまするが手前も昔取った杵柄《きねづか》……思い寄りも御座いまするでこの場はお任《ま》かせ下されませい。これから直ぐに……」
「……それは……慮外千万じゃのう……」
「……あ。それから今一つ大事な事が御座りまする。念のために御伺い致しまするが、旦那様は、そのお若いお方の讐討《あだうち》の御免状を御覧になりましたか……それともその讐仇《かたき》の生国《しょうこく》名前なんどを、お聞き及びになりましたか」
「いいや。それ迄もないと思うたけに見なんだが……」
「……いかにも……御尤《ごもっと》も様で、それでは鳥渡《ちょっと》一走り御免を蒙りまして……」
「……気の毒千万……」
「どう仕りまして……飛んだお妨げを……」
老亭主の佐五郎はソソクサと出て行った。……と思う間もなく最前の小娘が、別の燗瓶を持って這入って来た。ピタリと平馬の前に座ると相も変らず甲高《かんだか》いハッキリした声を出した。
「熱いのをお上りなさいませ」
平馬は何と
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