なく重荷を下したような気がした。
「おうおう待ちかねたぞ……ウムッ。これは熱い。……チト熱過ぎたぞ……ハハ……」
「御免なされませ……ホホ……」
「ところで今の主人はお前の父《とと》さんか」
「いいえ。叔父さんで御座います。どうぞ御ゆっくりと申して行きました」
「何……もう出て行ったのか」
「ハイ。早ようて二三日……遅うなれば一《ひ》と月ぐらいかかると云うて出て行きました」
 平馬は又も面喰らわせられた。
「ウーム。それは容易ならぬ……タッタ今の間《ま》に支度してか」
「ハイ。サゴヤ佐五郎は旅支度と早足なら誰にも負けぬと平生《いつも》から自慢にしております」
「ウーム……」

 しかし中国路に這入った平馬は又も、若侍の事をキレイに忘れていた。それというのも見付の宿《しゅく》以来、宿屋の御馳走がパッタリと中絶したせいでもあったろう。序《ついで》にサゴヤ佐五郎の事も忘れてしまって文字通り帰心矢の如く福岡に着いた。着くと直ぐに藩公へお眼通りして使命を果し、カタの如く面目を施した。
 ところで平馬は早くから両親をなくした孤児《みなしご》同様の身の上であった。百石取の安|馬廻《うままわ》りの家を
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