《おかた》が仰言《おっしゃ》りました。それで兄《あに》さんが大急ぎで作りました」
平馬はモウ一度膳部を見廻したが、思わず赤面させられた。小田原で酔うた紛れに美味《おいし》い美味いと云って、無暗《むやみ》に頬張った事を思い出させられたので……しかし……その中《うち》にフト青い顔になると、急に盃を置いて、小娘の顔を見た。
「……ちょっと主人を呼んでくれい」
「ハイ……」
と云ううちに小娘は燗瓶《かんびん》を置いて立上った。ビックリしたらしくバタバタと出て行った。
「……これはこれは……まだ御機嫌も伺いませいで……亭主の佐五郎|奴《め》で御座りまする。……何か女中が無調法でも……ヘヘイ……」
「イヤ。そのような話ではない。ま……ズット寄りやれ。実は内密の話じゃがの……」
「ヘヘ……左様で御座いましたか。ヘイヘイ……それに又、申遅《もうしおく》れましたが、先程は、お連れ様から、存じがけも御座いませぬ……」
「アハハ。実はそのお連れ様の事に就いて尋ねたいのじゃが……」
「ヘエヘエ……どのような事で……」
「その、お連れ様という奥方風の女は、どのような人相の女であったろうか……」
「……ヘエッ
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