を載せて、鼻の頭をチョット白くした小娘が、かしこまってお酌をした。済まし返ってハキハキと物云う小娘であった。
「……ここは茶室か……」
「ハイ。このあいだ、清見《せいけん》寺の和尚様が見えました時に、主人が建てました」
 平馬は床の間の掛物を振り返った。
「あの蝦夷菊はこの家《や》の庭に咲いたのか」
「いいえ。あの……お連れの奥方様が、お持ちになりました」
「……ナニ……奥方様……」
 小娘は無邪気にうなずいた。
「フーム。どんな奥方様か……」
 小娘はちょっと眼を丸くした。
「旦那様は御存じないので……」
「……ウムム……」
 平馬は行き詰まった。知っていると云って良いか悪いか見当が付かなくなったので……。
「……あの……黒い塗駕籠《ぬりかご》の中に紫色の被布《ひふ》を召して、水晶のお珠数《じゅず》を巻いた手であの花をお渡しになりました。挟箱《はさみばこ》持った人と、怖い顔のお侍様が一人お供《とも》しておりました」
「ウーム。不思議だ。わからぬな……」
「ホホホホホホホ……」
 小娘は声を立てて笑った。冗談と思ったらしかった。
「旦那様は鯉のお刺身と木の芽田楽が大層お好きと、その御方
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