イヤ。大阪の新聞がドレ位腹を抱えるか。つまるところ、山羊髯と俺が同罪なんだ。チョットした不注意だったのだが。イヤ。ヒドイヒドイ」
そう考えるとスッカリ眼が醒《さ》めてしまったが、何だか社に出るのが気まりが悪いような気がした。何とかして記事で正誤、訂正するか、取消しにする方法は無いものかと考えたが、生憎《あいにく》な事に写真ばっかりは一度掲載したが最後、取返しが絶対につかない事を覚った。
弱ったな……と悲観しているところへ下宿の女将《かみさん》が、梯子段の下から顔を出した。
「羽束さん。もうお眼醒めだすな」
その櫛巻《くしま》きの肥っちょう面《づら》を見ると思い出した。この女将《かみさん》は吾輩に度々特種を提供している。
……巡礼|婆《ばばあ》の行倒おれ……
……近所のドクトルの淋病……
……タキシー屋の幽霊……
……町内の標札の紛失……
なぞ、なかなか面白いが、今朝《けさ》も何か、そんなニュースが這入《はい》ったらしい。吾輩は頭のフケを狂人《きちがい》のように掻きまわしながら起上った。
「何ですか。お神《かみ》さん。又事件ですかい」
女将《かみさん》は返事をする準備と
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