を迂濶《うっかり》、お客に話したのを、例の通り顔剃りに来た芸妓が耳にするや憤然として理髪店を出て行ったが、彼《か》の女《じょ》が、憤慨の余り後家さんとの関係を箱崎署へ密告したものに相違ない。女の一念ぐらい恐ろしいものはありませぬ。私は元来無類|飛切《とびきり》の臆病者の神経屋ですから、人殺しをしてからというものは、あらん限り気を付けて、万に一つも手落ちの無いように心掛けていたものですが……と犯人は繰返し繰返し戦慄している。
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   後家を殺して[#見出し文字]
      高飛びの計劃[#小見出し文字]
        =犯人の第三告白=[#前の行とは0.5行アキ、「犯人の第三告白」はゴシック体]

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 犯人は箱崎署の厳重な取調べに包み切れず、次のような恐ろしい犯行の予定計劃を白状した。
 恐れ入りました。私の人殺しの真実の動機を教えてくれたものはあの後家さんです。ですからあの後家さんが生きている間は、枕を高くして寝る事が出来ません。現に後家さんは私を疑って、時々そんな口ぶりを洩らしている位ですから、後家さんから頼まれている地面の売れ次第
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