心は実に惨憺たるものあり……云々という記事であったが、この最後の文句を書き添えた吾輩の文章の苦心が、如何に惨憺たるものがあるかを知っている者は我が山羊髯編輯長だけであろう。
 それはいいが、その記事の終尾《おしまい》の処に次のような記事がデカデカと一号|標題《みだし》で掲載されていたのには驚いた。

   密告者は芸妓《げいしゃ》だ[#見出し文字]
      女の一念は恐ろしい[#小見出し文字]
           =犯人の第二告白=[#前の行とは0.5行アキ、「犯人の第二告白」はゴシック体]

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 箱崎署員の談によると、犯人は発覚の端緒を箱崎見番の芸妓《げいしゃ》某の密告と認めているらしい。犯人の告白に依ると該箱崎見番の芸妓某は犯人の男振りに夢中になり、毎日のように客足の絶えた頃を見計《みはか》らって犯人の処へ顔を剃りに来たもので、その都度、お前と下駄屋の後家さんとは兼ねてから懇意ではないかと念を押すので、犯人は知らぬ知らぬの一点張りで追払っていた。ところへ昨日、隣家の地面の事に就いて、後家さんとの交渉取次を犯人に希望する客人が来たので、後家さんが時々来る旨
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