みながら、吾輩がタッタ今立上った椅子の座布団の中へドシンと巨大《おおき》な大道臼《だいどううす》を落し込んだ。愛想《あいそ》もコソもあったもんじゃない。
「イヤ。お蔭でサッパリした。ところでどうだい。今の地面の話は……モウ少し歩み寄ってもいいんだが……。決して君を跣足《はだし》にしやしないが、先方はどこに居るんだい」
「ヘエ。これはモウ……何でも門司の親類の処に居るんだそうですが、時々八幡様を拝みかたがた様子を聞きに参りますんで。モウ今日あたり来る頃と思うんですが。二三日中に来るってえ手紙が、二三日前に参りましたんで……」
「ヘヘッ。お安くないね。うまく遣ってるじゃないか一木の後家さんと……」
「じょ……じょ……じょうだん……」
と親方は何かしら顔色を変えながら芸者の方をチラリと見た。しかし吾輩は何も気付かなかった。背後を振向いた時には、大きなお尻を振り振り、表口を邪慳《じゃけん》に開けて出て行く、豚芸者の後姿が見えた。……何という変な芸者だ。そんなに待たせもしないのに……と思っただけであった。
そのサッサと帰って行く後姿を見送りながら、苦々しい表情で瀬戸火鉢の前に腰を卸して、長羅
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