《かね》を探そうと目論《もくろ》んでいる吾輩の気持がわかったので冷笑しているのだ。その金がモウ無い事を知っているもんだから……。
吾輩は腹の中で二度目の凱歌をあげた。
「ウン。僕が狙った事件で外れた事件《やつ》は今までに一つも無いよ。要するにこの頭一つが資本だがね。ハッハッハッ」
「ヘエ。珍らしい御商売ですね」
親方が又コッソリ三尺ばかりの溜息を吐いた。吾輩のチャラッポコを信じて安心したらしい。吾輩も二尺五寸位の溜息をソッと洩らしながら椅子の中から起上った。
「お待遠さま……お洗いいたしましょう」
サッパリと洗って、いい気持になった吾輩が又、椅子に腰をかけると、親方が新しいタオルで拭き上げて、上等のクリームを塗って、巧みにマッサージをしてくれた。
「……こんにちは……御免なさっせ……」
「入らっしゃい」
新しい客が来た。ここいらの安見番《やすけんばん》の芸者らしい。但、着物の着附だけが芸者と思えるだけで、かんじんの中味はヨークシャ豚の頭に、十銭ぐらいのかしわ[#「かしわ」に傍点]の竹の皮包みを載っけた恰好だ。そいつが腐りつきそうな秋波を親方に送った序《ついで》に吾輩をジロリと睨
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