かると皆目《かいもく》、見当が附かないんだよ」
「ヘエ。警察では、その目的って奴を、まだ嗅ぎ付けていないんでしょうか」
「いないとも……浮浪人狩なんか遣っているところを見ると、この事件の性質なんか全然《てんで》問題にしないで、見当違いの当てズッポーばっかり遣っているらしいんだね。そうしてこの頃ではモウすっかり諦らめて投出しているらしいね。だからこの犯人は捕まりっこないよ。絶対永久の迷宮事件になって残るものと僕は思うね」
「ヘエ。どうしてソンナ事まで御存じなんで……」
 吾輩はヒヤリとした。そういう親方の声が妙に図太く聞えたので、扨《さて》は感付かれたかナ……と内心狼狽したが、色にも出さないまま、眼を閉じて言葉を続けた。
「ナアニ。僕はソンナ事を研究するのが好きだからさ。だからあの空屋《あきや》を買ってみたくなったんだよ。そんな犯罪事件のあった遺跡《あと》を買って、落付いて調べてみると、意外な事実を発見する事があるんだからね。そんな山ッ子が僕の商売なんだがね」
「へえ――。うまく当りますかね」
 親方がニヤニヤ冷笑しながら云った。……吾輩の言葉の意味がわかっているのだ。犯人の盗み忘れた金
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