きざ》みの煙草盆を引寄せていたというのだから十中八九、これは犯人が吸い棄てたものではないか……しかも半分以上残っているところを見ると、吸いさしたまま投棄てて犯行に移ったものではないか。その上から血餅が盛り上り、灰が引っ被《かぶ》さって今日《こんにち》まで残っていたものではないか。犯人が絶対に予期しなかった……同時に警察にも新聞記者にも気付かれなかった偶然の結果が、今日に到って、吾輩の眼の前に正体を暴露しているのではないか。
……占《し》めた……名探偵名探偵。何という幸先《さいさき》のいい発見だろう……これは……。
……神は正直の頭《こうべ》に宿るだ。吾輩の投げた一銭玉に八幡様が引っかかったらしい……。
……モウ他には無いか……スバラシイ手懸りは……。
吾輩は暗い空屋の中で朗らかになりかけて来た。すこし注意力を緊張さえすれば名探偵になるのは造作もない事だ……なんかとタッタ一人で増長しいしい消えたバットに火を点けた。悠々たる態度でその血の痕跡《あと》と、上り框の関係を見較べた。
被害者の右脇に在る鉄槌《かなづち》を右手で(犯人を右利きと仮定して)取上げて、老爺《おやじ》の頭を喰ら
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