盛上った灰が又、湿気のためにピシャンコになっているので、その下に在った塵屑《ごみくず》の形を、浮彫《レリーフ》みたいに浮き出させている。マッチの棒、鼻緒の切端《きれはし》、藁切《わらきれ》など……その中に煙草の吸殻らしいものが一個、平べったく粘り付いているのが眼に付いた。多分、犯行当時は真黒な血餅の下に沈んでいたので、誰にも気付かれないまま灰を振りかけられたものであろう。
その吸殻に懐中電燈を照しかけながら、念入りに検分してみると、それは半分以上吸い残した両切《りょうぎり》煙草が、血の湿気のために腹を切って展開《ひろが》った奴で、バットかエアシップぐらいの大きさの巻きらしい。ステッキの尖端でその周囲を引っ掻いてみたが、吸口《すいくち》らしいものはどこにも見当らなかった。ただ血と灰とが混合して発生したらしい※[#「※」は「草かんむり+斂」、第4水準2−87−15、257−10]《えぐ》い、甘い臭気がプーンとしただけであった。吾輩はホッと溜息をして顔を上げた。
金口《きんぐち》でない両切煙草を、吸口無しで吸う奴は、相当のインテリだろう。新聞記事によると、殺された老爺《じじい》は傍に刻《
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