なり》の家《うち》の中をば、火の玉が転めき廻わるチウお話で……」
と魘《おび》えたような眼付をした。その火の玉というのは、犯人が被害者の隠している金《かね》を探している懐中電燈の光りじゃなかろうか……といったような想像が、直ぐに頭へピーンと来た。だいぶ神経が過敏になっていたらしい。
「隣家《となり》の地面はまだ売れないんですね」
と店先の燐寸《マッチ》でバットに火を点《つ》けて神経を鎮《しず》めながら聞くと、
「イイエ。貴方《あなた》。人殺しのあった家《うち》チウて、あんまり評判が悪う御座いますけに誰も買いに来《き》なざっせん。わたしの家も気味の悪う御座《ござん》すけに、どこかに移転《うつ》ろうて云いおりますばってんが、この頃、一軒隣に、新しい理髪屋《かみつみや》が出来まして、賑やかしうなりましたけに、どうしようかいと考え居《と》ります」
「ヘエ。あの理髪屋《とこや》はここいらの人ですか」
「いいえ。どこの人か、わかりまっせんばってん、親方さんが愛嬌者だすけに、流行《はや》りおりますたい。あなた……」
「僕は隣家《となり》の空屋を見たいんですがね」
「ヘエ……あなたが……」
「僕が
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