で起ったんだなと気が付いた。
 思ったよりも立派な神社なので、思わず神前にシャッポを脱いで一銭を奮発した。今日の探険を成功せしめ給えと祈った。自分でも少々おかしいと思ったが、人間、行詰まると妙な気になるもんだ。俺みたようなインチキ野郎の御祈祷に、見通しの神様が引っかかってくれるか知らん……なぞと考え考え、お宮の北側の狭い横町に出て来た。境内一面の楠《くすのき》の下枝と向い合って、雀の声の喧《やかま》しい藁葺《わらぶき》屋根が軒を並べている。御維新以前からのまんまらしい、陰気なジメジメした横町だ。
 ……ここいらに違いない……と気が付いて見廻わすとツイ鼻の先に、軒先一面にペンペン草を生やした陰気な空屋があって、閉《た》て切った表の戸口に「売貸家《うりかしや》」と書いた新聞紙がベタベタと貼ってある。その左隣は近ごろ開店したらしい青ペンキの香《におい》のプンプンする理髪屋《とこや》で、右隣は貧弱な荒物屋兼駄菓子屋だ。どうもこの家《うち》らしいと思って、右側の駄菓子屋のお神《かみ》さんに聞いてみると果してそうだった。
「何か判然《わか》りまっせんばってん、事件から後《のち》、夜になると隣家《と
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