がある。寧《むし》ろ後家さんは全然無関係の者として研究した方が早くはないか。後家さんを疑うたらこの事件は迷宮に這入るかも知れんと、ワシが最初に云うておいたが、果してそうじゃった。それじゃから、よしんばアンタの男前で後家さんを口説《くど》き落しても何も掴めまいてや。無駄な事は止めなさい。昨夜のお玉さんなんぞと違うて、モウええ加減な婆さんじゃからのう。ヒッヒッヒ」
「ジョ冗談じゃない。モウそんな裏道へは廻りません。真正面から現場《げんじょう》を調べてみます。それから近所の住人の動静を探ってみます。とにかく僕が一つ迷宮の奥まで突抜けてみます」
「ホホ。中途で警察の世話にならんようにナ」
「承知しました」
吾輩はそのまま、威勢よく玄洋日報社を飛出した。
外に出てみると晩秋から初冬にかけて在り勝ちな上天気だ。
福岡市外というから箱崎町はかなり遠い処かと思ったら何の事だ。町続きで十分ぐらいしか電車に乗らないうちに、筥崎《はこざき》神社前という処に着いた。鳥居前に立ってみると左手の二三町向うに火見櫓《ひのみやぐら》が見える。田舎の警察というものは大抵火見櫓の下に在るものだ。事件は警察の直ぐ近く
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